1.必要な物
一般的な常圧手流し両面複製に必要な物は以下の通りです
・シリコン
・レジン
・離型剤
シリコン、レジン、離型剤の選定については別の記事をご覧下さい
・粘土
粘土はシリコンからの離れがよく、柔らかめな「ほいく粘土」がオススメです
とりあえず2㎏あれば、だいたいの常圧手流しの型は作れます
・外枠用ブロック、もしくはプラ板
外枠はプラ板を使っても作れますが、いちいち素材を使い捨てるの事になるので
専用のブロックを用意した方が長期的に見れば経済的です
・電子はかり
0.5グラム刻みまではかれる調理用の物がオススメ
・ポリエチレンビーカー
シリコンの撹拌用です
シリコンが固まったら、はがして再利用できます
300㎜lのビーカーで、およそシリコン600グラムまで撹拌できます
・紙コップ
レジンの撹拌用です
20回ほど使ったら新しい物に交換します
プラコップや塩ビ、シリコンカップを使用してください(2018/02/14追記)
・スポイト×2本
レジンを紙コップに注ぐための物です
当然ながら、A液とB液は別のスポイトを使用します
A液用のスポイトは割れやすく、B液はスポイトの中で固まりやすいです
・シリコン撹拌用の丈夫な棒
シリコンの種類によってはかなり粘りけがあるので
プラスチックの棒なんかでは簡単に折れます
ホームセンターに売っている金属棒やボルトがオススメです
・木板
注型時に型を押さえるための物です
型全体に均一に力がかかるようにします
・ゴムバンド
これも型を押さえるための物です
太めの物を使います
・プラモのランナー
レジンを撹拌するために使います
レジンに水分が混ざると、硬化時に発泡してしまうので
水分を含んでいる割り箸では代用できません
2.シリコン型の作成
・型の設計
どのように原型を配置するか
部位にかかる圧力、気泡の逃げ道、分割線、レジンの流れる経路などを総合的に考えます
この設計段階で、作る型の善し悪し,ひいては複製品の出来の8割程度が決まります
なので、僕の複製は原型を並べてうんうんと呻っている時間が長いです
配置が決まったら、型枠となるブロックの形を決めます
シリコンを節約するためにも、なるべく小さめにと思いがちですが
上方向の余白は大きく取った方が、レジンの流れはよくなります
この設計は、経験を積むことが何より大切なのですが
基本的な知識としては
・型の下の方がレジンの圧力が高い(レジンが流れやすい)
・上の面が平らになる物は、なるべく斜めに配置する
・上方の余白は多めに取る
・湯道(レジンの通り道)と原型の接点が最小になるように配置する
・湯道と原型の接点(ゲート)はなるべく単純な面に配置する
最初はとにかく失敗します
レジンが流れない、バリが酷い、型がずれて段差が出来る,レジンが漏れるetc...
何がいけなかったのか考えて、少しずつ設計を改善していきましょう
まぁ、大抵の原因は原型の配置が悪いか、シリコンをケチっていることなんですが・・・
・粘土埋め
型の設計が固まったら、原型を埋めるための粘土を用意します
まずは粘土を良くこねて、ビンなどを使って平らにのばします
確実に平らに、水平にしましょう
この面が斜めだったり、なだらかな凹凸があると
完成した型を固定した時に、圧力で型同士がずれて
複製品に段差が出来てしまいます
粘土を敷いたら、その上に外枠のブロックを押しつけて、跡を付けます
跡に沿って粘土を切り出して
再び型をかぶせたら準備は完了です
粘土面に設計どおりに原型を埋めます
この際、分割線が原型の中心にない場合は
埋める量が少なくなるように埋めましょう
文章では説明しにくいので下図で
こうすると
A面が原型を掴む力>粘土が原型を掴む力
A面が原型を掴む力>B面が原型を掴む力
となります
A面の保持力が高い方が良い理由はいくつかあります
・粘土埋めが楽、粘土面の平面を荒らさずに済む
・型の反転の際、粘土を取る時に原型がシリコン側から外れる事故を防ぐ
・複製品の脱型がしやすくなる(詳しくは複製の際に)
それでも深く埋めなければならない物もありますが
深く埋める物は力任せに押しつけてしまうと粘土面もいっしょに凹んでしまったり
周囲の粘土が浮いたりして、せっかく整えた平面が歪んでしまいます
なので、深く埋める場合はあらかじめ少し粘土を掘り返しておき
可能な限り平面を荒らさないようにして埋めましょう
原型を埋め終わった状態です
この時に、平面が歪んでいないことと、なだらかな斜面を作っていないかチェックをします
パーティングラインも、極力直角と直線だけでかけるようにすれば
たとえ圧力がかかったとしても型同士がずれることはありません
斜めになっている部分に縦方向の力が加わると
力を逃がそうとしたシリコンが容易に左右にずれてしまいます
つまり、こういう型を作れば,複製品に段差が出来ることを回避できるわけです
粘土埋めが終わったら、ダボ穴を打ちます
これを打つのも型ずれ回避が目的です
基本的には、複製品の周囲と型の外周にだけ打てば問題ありません
打つダボの直径が大きければ大きいほどずれにくくなるので
まずは出来るだけ大きなダボを打ち
開いてしまった空間を小さいダボで埋めるようにすると良いです
ダボうちにはナイフの柄や、筆の柄を使っています
また、ダボも深く打ちすぎると平面を荒らしてしまうので注意しましょう
これでシリコンを流す準備は完了です
・A面の作成
いよいよシリコンを流して型を作ります
ここではとにかく気泡に注意しましょう
シリコンは水などと違って、かなり流動性が低いので
細かな凹み(モールド)などには流れにくいです
シリコンが流れなかった部分は、もちろん複製できないので
複製できたと思ったら、一部のディティールが再現できていなかった
と言うことも起こります
細部まで流れているか、きっちりチェックするよう心がけましょう
今回は旭化成のM8017を使用して説明します
WAVEのSG-70と同成分の物で、里見デザインさんで1キロ2480円です
流動性が高く、硬化後はかなり堅めなので型ずれが起こりにくいです
ただし引っ張り強度が低く、耐久性が足りないので、量産には向きません
まずは容器内のシリコンを撹拌します
買ったばかりの物や、使う期間が開いたシリコンは成分が分離しているので
底の方までしっかりかき混ぜます
シリコンの種類によっては、かなり堅い物もあるので
撹拌に使う棒は金属製の頑丈な物にしましょう
十分に混ざったらビーカーにうつして計測します
シリコンの種類や埋める原型の体積にもよりますが
大まかな目安として5㎝×10㎝、厚さ1.5㎝の片面型を作るのに100gのシリコンを使います
※型の大きさによって、必要な厚さも変動するので、この数値を過信しないで下さい
目盛りをリセットして、硬化剤をはかります
入れすぎると取り返しがつかなくなるので、スポイトで慎重にはかりましょう
硬化剤の量を増やすと、硬化時間が短くなりますが、型は脆くなります
イベント前などの修羅場には背に腹が変えられないこともあるので
記憶の片隅にでもとどめておくとよいでしょう
しっかりと撹拌したら、シリコンを注ぎます
この時、一度に全部入れずに、まずは全体が浸る程度の量を入れます
綿棒で原型の表面を軽く撫でて、ディティールの中までシリコンを行き渡らせます
エアブラシやダストブロアーを使うのも有効です
この時、力を入れすぎたり風圧を強くしすぎて原型を動かしてしまわないように気をつけましょう
気泡が抜けたら、ゆっくりと全てのシリコンを注ぎます
型枠のブロックに隙間があると、このようにシリコンが漏れてきますが
この程度なら問題ありません
もっと激しく漏れるようならば、漏れる箇所に粘土などを当てて対処しましょう
あとは硬化を待ちます、外気条件などによって硬化時間は変動するので
ビーカーの中に残ったシリコンを触ってみて、硬化を確認しましょう
またこの時、型を置く場所が水平でないと
粘土側の面と水面が平行ではなくなってしまい
これもまたクランプ時に型がずれる事の原因となります
水平器などを使って水平な置き場を確保しましょう
表面が固まったからといって脱型すると
中はまだ固まっていなかった、なんてこともあるので注意です
シリコンは高温多湿の条件下で硬化が早くなります
簡単な方法は、ぬれタオルをかぶせてコタツの中に入れたり
浴槽に湯を貼った風呂場に置く事ですが
風呂場は構造的に水平が確保しづらいので注意して下さい
流動性の低いシリコンを急速に硬化させると、内部の気泡が抜けきらない場合があるので
RCベルグのシラスコンなどを使う場合は注意してください(2018/02/14追記)
・B面の作成
シリコンの効果を確認したら、型枠のブロックを外します
ブロックの隙間から漏れて出来たバリがあったら、ここでちぎっておきましょう
粘土を外す際は、原型ごと取らないように注意しましょう
一度原型がA面のシリコンから離れると、奇麗に複製するのはほぼ不可能と考えて下さい
ここでA面が原型を掴む力>粘土が原型を掴む力の関係が効果を発揮します
これがA面を作る際に原型を粘土に浅く埋めた理由の1つです
粘土を除去した状態です
こびりついた粘土も爪楊枝などでひっかいて完全に落としましょう
粘土埋めの際、原型と粘土の間に隙間があったせいで、シリコンが流れ込んでいます
この現象は比較的簡単に対処できるため
粘土面を荒らさないことを優先して、あえて隙間埋めに神経質にはなりませんでした
シリコンを分割線で切って、こちらの面に出来ている薄い膜を取り除けば対処できます
この時、力を入れすぎると、原型を傷つけてしまうので気をつけて下さい
少々の傷ならば、どうせ同じ位置に分割線が来るので、今回の複製品には影響ありません
再びブロックで囲んだら、表面にシリコーンバリアーを塗ります
出来れば原型には塗らず、シリコン万だけに塗った方が良いですが
そんな事よりも塗り忘れている面を無くすことを優先しましょう
特に、原型の周りに塗り忘れた面があると
最悪の場合、脱型が不可能な型が出来てしまい、型作りは失敗と言うことになってしまいます
シリコーンバリアーに着色し、視認性を上げることも有効です
塗り忘れがないこと確認したら、ブロックを高くしてB面のシリコンを流します
原型に気泡がないかの確認は、A面の手順と同じです
再びシリコンの硬化を確認したら、B面の完成です
・シリコン型の仕上げ
A面とB面を慎重にはがします
シリコーンバリアーを塗っていても、剥がし難い事があるのでゆっくりと剥がして下さい
ここで、ディティールがちゃんと複製できているかどうか確認します
A面から原型を外す際
この様にポケットになっている部分(逆テーパーと言います)がある場合は
逆テーパーの反対の部分をまず持ち上げ、そちらの方向に引き抜くようにして型から外します
無理矢理引き抜こうとするともちろん型の方が食いちぎられます
たいていの場合、このような部分が壊れて型の寿命となるので
可能な限り、ここには負荷をかけないように心がけながら型を扱いましょう
そもそも原型が分割可能な場合は
逆テーパーを作らないようにあらかじめパーツ分けしておく事が望ましいです
型にレジンの通り道(湯道)と空気の抜け道を彫ります
これも型の設計通りに下書きをしていきます
この時、湯道と原型の接点(ゲート)を大きくすればするほど
レジンは流れやすくなりますが、その分複製品のランナー部分が太くなります
まずは細めにゲートを切り、レジンの流れ具合を見ながら調整していくのが良いでしょう
レジンを注ぐ漏斗部分(湯だまり)と
その下の湯口は大きく取った方がレジンの圧力は上がります
湯口が段差になっているのは特に深い意味はありません
ついでにレジン棒も複製したかっただけです
湯道が掘り終わったら、遂に型の完成です
3.レジンの注型
完成した型にレジンキャストを流します
ここで言うレジンキャストとは無発泡性ウレタン樹脂の事で
A液とB液2つの液体を混合する事で、数分で反応、硬化する素材の事です
硬化時間は複製用に調整されており、通常は2~3分で硬化する物を選びます
まずは型の準備
シリコン型の内側にシリコーンバリアーを塗ります
これはシリコン型を石油製品であるレジンから保護すると共に
ワックス代わりにして複製品の脱型を容易にするためでもあります
逆テーパーのない10回以下の複製なら塗らなくても問題ありませんが
デメリットもあまりないので、とりあえず塗っておいた方が安心です
型を合わせて、ゴムバンドなどでとめます
この際、型が大きいと全体に均一な力がかからず
型の中心付近が膨らんでしまうので、木版などに挟んでからゴム止めします
いよいよレジンを混合します
用意する物ははかりと紙コップ、それと撹拌用のプラモデルのランナーです
プラスチック製の棒なら何でも良いのですが
しばらく使っていると棒にレジンがこびりついて使えなくなってしまうので
いくらでも使い捨て出来るランナーを使う事をオススメします
割り箸などの木の棒は水分を含んでいるので使えません
レジンに水分が混ざると、硬化時の熱で水蒸気になってレジンが発泡してしまいます
画像では紙コップを使っていますが、紙コップは水分を含んでいるので
プラコップか塩ビ、シリコンカップなどをお使いください(2018/02/14追記)
紙コップにランナーを入れ、はかりをリセットします
紙コップにレジンをA液B液同量をそれぞれのコップに注ぎます
小さい物を複製する場合でも、一回の複製につ買うレジンの量は5g以上とします
はかりの目盛りが0.5きざみなので
これ以上少ないと小数点以下の誤差の比率が高くなってしまうからです
A液とB液の誤差が10%を超えると、硬化不良が起きたり
複製品の強度が極端に低下してしまいます
二種類の液体を第三のコップに注ぎます
これでコップに残る量による誤差を無くします
手早くランナーで撹拌します
完全に混ぜないと硬化不良が起こるので、しっかりと撹拌して下さい
撹拌したレジンを型に流し込みます
この2工程にかける時間を抑える事で
シリコンが型の中を流れていられる時間を増やします
冬場は型の温度が低すぎると、レジンが固まらなかったり
温度差で大きなヒケが発生したりします
30℃程度に型を温めてからレジンを流すのが理想です(2018/02/14追記)
シリコンが最後まで流れていれば、空気抜きからレジンが上ってきます
これを確認できたら、まず一安心です
・複製品の脱型
レジンが硬化したら、慎重に型を開きます
これも一気に開いてしまうと、レジンが型に張り付いて壊れる事があるのでゆっくりと
この時、複製品への食い込みが少ないB面を剥がします
ここでA面が原型を掴む力>B面が原型を掴む力の関係が効果を発揮します
B面を外した状態です
A面には逆テーパーの部分がありますが、型を開いた状態で
複製品を見ながら取り外しが出来るので、さほど難しくはありません
もしもA面に逆テーパーを集中させていなかったら
複製品が見えない状態で逆テーパーのあるB面を剥がさなければならなくなるので
型が壊れる可能性がかなり高くなってしまいます
逆テーパーのパーツを脱型する手順は
原型を取り出した時と同じく、型に負荷をかけないように
脱型が完了しました
あとはゲートを切って気泡などの修正をすれば複製は完了です
基本的なシリコン複製の手順は以上となります
無責任に簡単とは言えませんが、やろうと思えば無理な事ではないので
興味のある方は是非試してみて下さい
きっと模型の世界が広がると思います
無題